福井家庭裁判所 事件番号不詳 決定
少年 D(昭一五・一・五生)
主文
本件申請を却下する。
理由
本件申請理由の要旨は別紙記載の通りであつて、当裁判所はこれに対し次の通り判断する。
少年は昭和三四年二月九日当裁判所で同年少第六号、第六七号、第一〇二号虞犯、強盗未遂、窃盗保護事件について特別少年院に送致する旨の保護処分決定を受け、同年同月一二日以降肩書住居地愛知少年院に収容せられ、爾来同院で矯正教育を施されてきたものであるが、在院中、格別の反則乃至事故とてなく、然も最近はその生活態度に可成りの落着きと自信が出来、且つ自力更生の意欲も相当高揚している上、職業補導面でも少年が中学校卒業後から同院に収容直前頃迄約三年半の間に習得した大工職の経験を生かせて引続き同院で木工技術の修得に努めて好成績を挙げており、他方、肩書本籍地に居住の実母は同地で少年の就職先(船大工職)を用意して只管その帰住を待ちもうけ、少年自身も嘗て過誤を犯した東京等都会地を避け、実母の手許で落着き就労することを望んでおり、また在院中屡次の書信の往復等で少年と実母との間の心的交流も充分であり、その他家庭の受入体制上少年の復帰に特に障害となる点が全く存しない外、いまや少年は自己の前非を深く悔いると共に前記事件当時恃むべき人に頼らず、頼る可からざる者を頼りとして徒らに些かの功を焦つたことが惹いては右の過誤を招来する結果となつたことを悟り、前示の通り郷里の実母の許で仕事に励んで向後再び非行を犯すことなき所存であることが認め得られる。
そして、少年は施設収容直前の鑑別結果に徴してみても、その資質上、知能は普通級で特に問題なく、その他格別高度、且つ顕著な性格的偏倚がなく、また収容時懸念せられた興奮性、衝動性等の性格特徴についても、事故防止のための職員の慎重な配慮も然ること乍ら、少年については前示の如く在院中逃走、暴行等は固より該特徴を窺うに足る何等の所行も存しない。
そうだとすると、少年に対しては、少年院法第一一条第一項但書所定の収容継続の限度内の期間を以てする前記矯正教育に併せてその間における環境調整の結果、夫々所期したところを一応達し得たと云うべきであつて、向後若干の期間同院における収容を継続することによつて引続き右教育を施す必要が多いとは到底考えられず、累進処遇上最高の段階に達していないことにより仮りに保護処分の万全を期するためなお些かその余地が存するにしても寧ろ、少年の自覚自省に訴え、自力で更生の途を歩ましめるため此の際家庭復帰の機会を与えることの方がその将来に資するところより一層大きいと信ずる。
以上の次第で、本件申請は理由がなく、これを却下すべきものとし、主文の通り決定する。
(裁判官 岡村利男)
(別紙) 収容継続を必要とする理由
少年 D
本少年は虞犯、窃盗、強盗未遂保護事件により福井家庭裁判所において特別少年院送致決定を受けて当院に収容せられ、爾来、約一ヶ年間厳格な規律の下で生活指導及び職業補導を受け、これを通じてその濃厚な非行性の是正に努めてきたものであるが、遺憾ながら現状ではいまだ充分にその目的が達せられたものとは認め難い。すなわち、少年は
(一) 処遇段階は、昭和三四年一二月一日漸く一級下に進級したばかりであつて、退院はいまだその時期尚早と判断せざるを得ない。
(二) なお、その性格上は、格別高度且つ顕著な偏倚とてないが、クレペリン検査では中高の興奮傾向を示し、ロールシヤツハ検査では色彩反応多く好争的で衝動性が非常に大きく、色彩ピラミツド検査では視野が狭小であることが知り得られ、少年の在院中の行動観察からも右の諸検査結果に表われた行動特徴が窺知出来たので、特に逃走及び暴行事故の防止については慎重に対処し、その結果大した反則、事故もなく現在に及んでいる。もつとも、最近はその生活態度にもやや落着きと自信がみられ、自力更生の意欲も相当高揚してきたように見受けられる。
(三) 幸い帰住に際しての受入体制については差当り問題なく、家庭との親和感も強く将来頼むに足るものがあるので、当院では向後少年の特技である木工(大工職)技術をより一層伸展させ、少年をして将来これをその自活の手段たらしむべきことを主眼として職業補導を実施すると共に節度ある生活態度の涵養、自主性及び洞察力の養成並びに自制力の増強等を図るため生活指導を強く推進し、以て少年の社会再適応化に資せしめるよう教育訓練を実施していく心組である。
以上の理由により少年に対しては更に引続き当院で相当期間教育訓練を施することにより保護処分の万全を期する必要があると考えるので収容継続八ヶ月を申請するものである。